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地獄ちゃんの夏、失くした果実の海

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投稿日時
2017-07-21 21:12:30

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上野乃桜木

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投稿者コメント
 「ひろし、これをやろう」

 「どうしたの? 好きじゃなかった?」

 灼熱の女神ヴァレンティーナの季節。流し過ぎた涙溜まり。象牙色粒子の庭。紅の氷菓。
 僕はらしくなく、食べかけのそれをひろしにやることにした。ひろしがこの行動に疑問を抱くのも解る。だから、この少年に僕の理由を教えてやろう。

 「いや、気づいてしまったのさ」

 「なにを?」

 「戦に勝たねばスイカは食えん」

 「え?」

 「たとえ疑似スイカだろがスイカはスイカ。戦わぬ者喰らうべからずだ」

 「ああ! スイカ割りがしたいのか~」

 さすがひろしだ。二行で理解した。
 息子の切れ者ぶりに、ひろしの母、通称《ママ》が歓声をあげる。

 「ひろし、あんたよくわかったね~! やっぱりあたしの息子は神童で確定だ!」

 「お母さん、これくらいはわかるよ~」

 母の賛美をこそばゆがるひろしの傍らで、雲と天使をを従える神、通称《天国ちゃん》も歓喜とともに少年ひろしの未来を占う。

 「ひろしさんの将来は考古学者かもしれませんね」

 「あははは、天国ちゃん大げさだな~」

 このゆったりとした佇まいの神、なかなか侮れぬぞ。胸にふたつの西瓜スイカをぶら下げる者なのだから。……僕にも、過去そんな刹那があった……まあよい。生物は多様性だ。捨てる胸スイカあらば、喰らう玉スイカありだ。
 むっ………いかん、腹が減った……。この糸昆布のような眼差しをした少年に発破をかけねば。

 「ひろし、急がねば海月が出るぞ」

 「わかった! ぼくいってくる!」

 「ひろしさん、わたしもお手伝いします」

 「よし、一緒にいこう天国ちゃん! って、洗濯板とタライ持ってどうするの?」

 「スイカでしたら、川で洗濯をしようかと思いまして」

 「天国ちゃん、それは桃太郎だよ~!」

 「あ、そうでしたぁ」

 「あははは」

 「うふふふ」

 このゆるやかな西瓜の女神……やはり侮れぬ。だが、僕はなにやら面白くない。

 「ひろし、もはやモモでもスイカでもどちらでもいい、糖度50位上の玉を収穫してこい」

 「がってんだ! 地獄ちゃん待ってて~!」

 少年春咲ひろしは象牙色粒子の庭を駆け出した。神の少女もそれについてゆく。

 あ、

 転んだ。
 少年が女神に駆け寄り、起き上がらせている。

 …………ひろしならば、当然のことだが、僕はなにやら……

 まあよい、ひろしにはあとで日焼け止めクリームでも塗らせてやろう。
 まだ見ぬ西瓜の褒美だ。




 神さま、天国さくらのはつ恋
 季節の外伝、一『地獄ちゃんの夏、失くした果実の海』 おしまい
 
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